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アフリカ・マダガスカルでニッケル鉱山の開発を進める住友商事は、開発によって森林にすむ希少な生きものが失われないよう大規模な「生物多様性オフセット」を実施する。開発地で失われる生物多様性を別の場所で復元し相殺(オフセット)する。できれば以前より豊かな生態系を目指す。ほかにあまり例のない試みについて、住友商事の稲葉誠アンバトビー・プロジェクト部チームリーダーに背景などを聞いた。
「鉱山は、首都アンタナナリボの東約80キロにある。ニッケルやコバルトなどをおよそ1%含む土壌を採掘し、水を混ぜて流れやすくしてパイプラインで220キロ離れた港町、トアマシナに建設中の精錬所に送る。そこでブリケット(地金)にして輸出する」
「採掘からの一貫生産で、期間も30年間弱という大規模・長期プロジェクトになる。ニッケル地金の生産能力は年間6万トン。世界市場のおよそ4%に相当する。カナダの鉱山会社のシェリット、韓国の資源公社、カナダのエンジニアリング会社とによる4社のプロジェクトだ」
住友商事の稲葉誠アンバトビー・プロジェクト部チームリーダー
「2007年から建設を始め、すでに8割方完成した。来年初から稼働し、13年にフル生産に入る。権益は韓国公社と住友商事の半々。日本だけでなく、中国はじめアジア諸国へも販売する。08年に開いた第4回(TICAD4)で、日本政府が進めるアフリカ支援の一助として位置付けられた」
――生物多様性保全のためにどのような配慮をしているのですか。
「鉱山のフットプリント(森林を切って開発する広さ)は約1400ヘクタールあるが、その周辺の約4900ヘクタールを森林保全ゾーンにして、私たち開発者が責任をもって保全管理する。鉱山開発のため木を切る際も、時間をかけて少しずつ進めた。切り倒した木はしばらくそこに寝かせたままにして、樹木にすみ着いていた生きものが周辺の保全ゾーンに移動できるようにした」
「また、地元の非政府組織(NGO)などと協力し、伐採しなければならない森の希少植物種を調査して、保全ゾーンに移した。NGOの人たちは現場に寝泊まりして調査にあたった。この保全ゾーンと近隣のマンタディア国立公園をひとつづきの森として、森林回廊を指定して保全する計画だ。採掘を終えた後は再植林して鉱山も緑に戻す」
「焼き畑と木炭づくりのための伐採によって、1970年代は7〜8割を占めていた原生林が、今では2割程度に減り、ほとんどが二次林などになってしまっている。私たちは鉱山開発で伐採した木を木炭用に地元の人々に提供する。保全ゾーンは柵こそ設けないが、定期的にパトロールして違法な焼き畑や伐採などを防ぐ」
「パイプラインも地中に埋設する方式を採用しており、一度掘り返した後には植林をする。森のつながりを途絶えさせないためだ。環境に配慮した結果、パイプラインのルートは当初計画より曲がりくねった形になって総延長も伸びた」
「さらに、鉱山から北東に約70キロ離れたアンケラナ地区で、開発場所と生態系が似ている約1万1600ヘクタールをオフセットゾーンに選んだ。開発地区の約8倍の広さがある。ここで企業・政府と多様性専門家が組織する国際団体の『ビジネスと生物多様性オフセットプログラム(BBOP)』と共同で、生物多様性が開発によって減らないよう、できれば多様性が豊かになるように、何をするか、プログラムを計画中だ」
希少なキツネザルの仲間カンムリシファカ(住友商事提供)
「マダガスカルはアフリカ大陸とは違った生態系で知られるが、この地区にも希少なキツネザルの仲間、爬虫(はちゅう)類や両生類、魚類が多数生息している」
「10種いるキツネザルの156個体に無線通信機を付けて、その生態を明らかにする調査を進めている。生態が分からなければ保護も難しいからだ。希少な魚は水槽で育てオフセットゾーンで増やすことも考えているが、まず現状の生態系の様子を把握することが先決で、国際環境NGOの『コンサベーション・インターナショナル』や現地のNGOなどと協力して調査に取り組んでいる」
――このような大規模な生物多様性オフセットを導入した背景・経緯はどうだったのですか。
「プロジェクトは日本の国際協力銀行をはじめ銀行団によるファイナンスを受けている。大型プロジェクトファイナンスにあたって、環境負荷軽減のために順守を求められるガイドライン(赤道原則)があり、これを守ることは当然だが、これに上乗せして多様性への配慮を考えた」
「もともとこの地区の権益を持っていたカナダの鉱山会社、ダイナテック社が現地のNGOやマダガスカル政府と相談を重ねて開発計画を練り、地元で公聴会を開いてきた。その後、ダイナテックをシェリットが買収し、私たちとともにプロジェクトを進めることになってからも、公聴会を繰り返し、その回数は300回にも及んでいる。長期の計画であるだけに地元とのコミュニケーションが大事だと考えている」
「住友商事はインドネシアの鉱山プロジェクトでも、多様性オフセットの経験があるが、マダガスカルは手つかずの自然が残されており、より適切な計画を地元といっしょにつくる必要があった。建設段階の環境コストは数千万ドルかかるが、これからはこうした配慮なしには開発はできないと考えている」
〈取材を終えて〉 鉱山開発がマダガスカルに大きな富をもたらすのは確実だ。経済効果への期待もおそらく大きいに違いないが、自然環境を不必要に壊し地元の人々の生活を脅かすようなことは避けねばならない。その意味で生物多様性オフセットを導入した開発計画は、経済開発と環境保全の両立を目指す試みとして注目していきたい。
マダガスカルのオフセットは、似た環境を備えた保護地区を新たに設けて、そこの自然を豊かにし多様性の損失を相殺する試みだ。その延長線上に生態系を売り買いするビジネスが見えてきている。米国にはミティゲーションバンク(緩和措置の銀行)という制度があって、第三者が創出した環境を銀行に登録し、代償が必要な開発事業者にクレジットとして売るという。
生態系の価値をどのように金銭換算するのか、クレジット購入した自然環境は開発で消えた環境の代償になりうるのか、素朴な疑問がわく。名古屋で始まる第10回締約国会議(COP10)ではこうしたビジネスも話題になりそうだ。
日本経済新聞より