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第10回締約国会議(COP10)は、先進国と新興・途上国が利害の対立を乗り越え、生物資源の利用と生態系保全に関する新たな国際ルールづくりに成功した。防止を目指す国連の交渉が、暗礁に乗り上げているのとは対照的な結果となった。同じ地球環境分野で1992年に採択された「双子の条約」の明暗を分けたものは……。
10月30日0時過ぎのCOP10本会議。「議長提案の議定書には同意できない。しかし、われわれはもう何年もこの問題を討議してきた。採択を邪魔するつもりはない。この発言を議事録に残しておいてほしい」。松本龍議長(環境相)に繰り返し異議を唱えてきたキューバ代表が軟化した。疲労の色濃く、こう着していた会議の歯車が回り始めたように感じられた。
地球環境の国際会議は、全会一致で採決される。つまり、1カ国でも反対に回れば合意は形成されない。それを逆手にとって、議事の妨害や引き延ばしがしばしば起きる。2009年12月、デンマークのコペンハーゲンで開かれたUNFCC第15回締約国会議(COP15)がその典型だ。南北の利害が鋭く対立し、成果を上げることなく終わった。
南北対立の構図は生物多様性も同じこと。18日に開幕したCOP10は、最終日前日の28日になっても、南北の主張が衝突して合意形成が危ぶまれていた。29日午後、グリーンピースや世界自然保護基金などの非政府組織(NGO)が予定していた記者会見は相次いで中止に。「コメントできる内容が何もない」(グリーンピース)というありさまだった。
ところが、29日午前、らちがあかない官僚同士の交渉を打ち切って、各国に手渡された議長提案、つまり政治決着の方針が事態を変えた。それまでの南北の主張を少しずつ足し引きし、結果として双方が受け入れやすい絶妙の内容になっていた。「完璧(ぺき)なものではないことを説明し、各国に譲歩と妥協をお願いした」と松本議長は語る。
冒頭に戻る。キューバ代表の要求に対して、松本議長は「そのようにいたします」と答えた。ベネズエラ、ナミビア、ボリビアなど途上国側が不満を漏らしながらも、異論を議事録に残すという手法で、次々と議事進行への協力を約束した。ナミビア代表は「コペンハーゲンの二の舞はしたくない」とまで言い放った。
そして真夜中の1時半、松本議長が異議のないことを確かめ、テーブルに木づちを打ち下ろすと、満場の拍手がわき起こった。COP10で最も難航していた生物資源利用の利益配分をめぐる「名古屋議定書」が採択された瞬間だ。コロンブスの卵のような「譲歩と妥協」の精神が、国際会議の突破口になりうることが実証されたとも言える。
日本が議長国として手腕を発揮したことは間違いない。外国メディアの報道ぶりを見ても、会議の成果を高く評価していることが分かる。例えばロイターが「生物を守る歴史的な取り決めに各国が合意」、インドの「ザ・ヒンドゥー」紙が「名古屋議定書はインドにとって大きな勝利」などと報じ、南北とも珍しく好意的に扱っていた。
ただし、そのことに酔ってばかりはいられない。各国の合意は、生物多様性なりの長年の事情があるからだ。条約ができてから18年。双子のUNFCCでは1997年に先進各国のガス削減目標を定めたが採択された。同議定書の不備はその後たびたび、やり玉に上がったとはいえ、生物多様性の関係者は国際ルールの必要性を痛感していた。
生物保護区の拡大を訴えたハリソン・フォード氏(10月28日)
京都議定書策定で交渉の先頭に立った環境省の小林光事務次官は「生物多様性は10年越しの議論だから、もう結論を出して実益を得たいという参加各国の期待は強いはず」と事前に指摘。ほぼその通りになった。新ルールはできたものの玉虫色の解釈は多く、具体的な運用に移していくには、まだ長い道のりが待っている。
NGOも粘り強く、交渉の後押しをした。会場内で積極発言するNGOの姿が目立ち、生物多様性条約市民ネットワークの吉田正人代表は「日本のNGOはずいぶん力をつけた」と目を細める。来日した米ハリウッドのスター、ハリソン・フォード氏は、副理事長を務める米国のNGOを代表して生物保護区の拡大を訴え、会議に彩りを添えていた。
COP15会場付近に詰め掛けた活動家らを包囲する警察当局=ロイター
会場となった名古屋国際会議場の周辺は、万一に備えて厳重な警戒態勢が敷かれたが、目立った抗議行動はなく、終始落ち着いた雰囲気に包まれていた。昨年のコペンハーゲンはそうではなかった。温暖化問題を話し合うにはふさわしくない極寒のなか、会場周辺には活動家らが大挙して押しかけ、数万人の抗議デモ隊の一部が暴徒化。紛糾する会場内と同様、街中も大荒れだったという。
コペンハーゲンでは、2013年以降の温暖化対策を定める「ポスト京都議定書」づくりが焦点だった。米国の温室効果ガス削減目標は小幅、中国は経済成長の足かせにならない程度にとどめた。合わせて全世界の温室効果ガス排出のほぼ半分を占める両国が自国の利益を最優先にしたのだから、途上国も黙ってはいない。会議は空中分解寸前になり、実質的な解決を先送りするはめになった。
11月29日から風光明媚(めいび)なメキシコの観光地カンクンを舞台に、COP16が開かれる。準備会合は不調に終わり、新議定書策定は夢のまた夢という状況だ。生物多様性交渉の「譲歩と妥協」が、COP16を成功に導くことができるだろうか。松本環境相は「名古屋で大きな成果を上げ、たくさんの友人ができた。カンクンでもしっかり議論したい」と期待を込めたが、先行きはまったく予断を許さない。
日本経済新聞より